5行以内で50のお題 21〜30




21.宛先のない手紙 (87文字)


たとえば、知らない街に足を踏み入れた瞬間に。
めずらしいものを見つけた日に。
面白い人たちに出会った時に。
お前の顔を思い出すのは、きっと宛先のない手紙の代わり。

「元気でやってる」


「斜陽のひかり」



22.赤い靴 (97文字)


「なにも足を切り下とすことはなかったと思うんだが……」
「ん? 童話か?」
「そう。足を切り落としたらもう歩けないだろうに」
「そりゃな。じゃあお前だったらどうするんだ?」
「靴が駄目になるまで踊るかな」


「曙光の星に願いを寄せて」



23.望んだ世界 (80文字)


制服ではなくマントをまとって。
シャーペンではなく剣を握って。
自転車ではなく馬に乗って。
他の誰でもない、ただ一人の主君に仕えて。

知ってる? これが僕の望んだ世界だ。


「覇者の王冠」



24.たとえ声を失くしても (97文字)


愛馬の手綱を引き、近くにいるはずの主君を探す。
すぐに鮮やかな『赤』を見つけて、彼はほっと安堵の息を吐いた。
「なんだ、もう疲れたのか?」
「いえ」
たとえ声を失くしても、自分はきっと迷子にはならない。


「覇者の王冠」



25.オルゴール (97文字)


「よく飽きないな。同じ曲を何度も何度も」
「別に好きなわけじゃねえけどよ。曲が途切れる前にネジを巻くとずーっと終わらないだろ?」
「ああ」
「なんか『永遠』って感じがしねえ?」

敵わないな、と思う瞬間。


「斜陽のひかり」



26.どこかへ (79文字)


「この先はどこへ行くんだ?」と聞かれ、当たり前のように「どこかへ」と答えた。
帰る場所は決まっているから、相棒の少女と共にどこかを目指す。
今日はどこへ行こうか。


「斜陽のひかり」



27.羽を下さい (98文字)


「貴方に永劫の忠誠をお誓い申し上げます」
膝をつき、主君に対する最高礼をほどこして、美貌の魔術師はひっそりと笑った。
欲しいものはひとつだけ。
この強すぎる主君について行くための、強く大きな羽を下さい。


「覇者の王冠」



28.境界線 (100文字)


「冗談じゃねぇ、どういう育ちをしたらこんなのが出来るんだ?」
「こっちの台詞だ。お前が騎士? 笑い話以外の何ものでもないな」
「ま、お前の育ちになんか興味ねぇけど」
「珍しく気が合うな、同感だ」

ここが境界線。


「ナイトメア」



29.振り子 (94文字)


右へ、左へ、右へ、左へ。
目の前で揺れるそれを見やり、呆れたように眉を寄せると、少年は腕を組みながら溜息を吐いた。
「催眠術なんか効くわけないだろ。プリンくらい自分で買って来なさい」
「あぅっ」


「沈黙の王様」



30.優しい嘘 (27文字)


戦場で幾度も繰り返される、「死なない」というその言葉。


「覇者の王冠」







    


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