5行以内で50のお題 11〜20




11.おやすみ (99文字)


どこか遠くから、ひどく優しい子守唄が聞こえる。
おやすみ、と髪を撫でてくる手を振り払い、沈み込もうとすると意識を浮上させて。

「消えろ、死神」

優しい眠りに身をゆだねるのは、自分がこの世界に飽きた時だけ。


「ナイトメア」



12.名前 (76文字)


儚いもの。夏と共に消えていくもの。永くは生きられないもの。
名前に込められた意味を知りながら、『蛍』は夏の過ぎ去った空を見上げ、ただ小さな笑みを浮かべた。


「沈黙の王様」



13.痛みと悲しみともう一つの (100文字)


鮮血が噴き上がり、赤い花びらのように全身へ散っていく。
自分とよく似た顔を見つめ、血まみれの体を柔らかく抱きしめると、彼は花が綻ぶように微笑した。
「すみません」
そこにあるのは、痛みと悲しみともう一つの。


「覇者の王冠」



14.もしも (96文字)

「もしも貴方に会ってなかったら、と思うとぞっとするな。どうなってたんだろう」
「そりゃあ……」
少年の問いに答えようとして、嫌な想像に顔をしかめる。
「おい、変なおじさんについて行くなよ?」
「は?」


「曙光の星に願いを寄せて」



15.こいねがう (30文字)


希う。
冀う。
乞い願う。
叶うならどうか、お前に安らかな眠りを。


「斜陽のひかり」



16.雨が上がるまで (98文字)


「つーかお前、雨に濡れたがる癖をどうにかしろよ」
「悪いな、おれは人語しか理解できないんだ」
「……死ね、この人格破綻者」
「お前が死ね。濡れようが何だろうがおれの勝手だ」

せめて、この雨が上がるまでは。


「ナイトメア」



17.虹 (73文字)


「宝物?」
首を傾げて問い返すと、共通語の不自由な友人は笑って頷いた。
どこにあるの、と勢い込んで尋ねた僕に、友人は空の向こうを指差す。
「あれの真下」


「覇者の王冠」



18.一輪の花 (99文字)


鍛練場で剣を構え、光色の髪をなびかせたその姿に、若い兵士は感嘆の溜息を吐く。
まるで戦場に咲く一輪の花ですねぇ、という呟きは、笑みを含んだ国王の言葉によって否定された。
「そんなに弱くないだろ、あいつ」


「斜陽のひかり」



19.黄金の林檎 (95文字)


「うっげ、まずそう」
「馬鹿、知らないのか? 神話で『もっとも美しい女神』に贈られた林檎のことだよ」
「えっ、じゃあ兄貴たちに贈る!? 林檎にカラースプレーかけてっ!」
「……夕飯抜き」
「えぇっ!?」


「沈黙の王様」



20.相変わらず (90文字)


パシン、という音に顔を上げれば、立ち去っていく女性の後ろ姿と頬を押さえた保護者の姿。
「どうしたんだ?」
「いや、『保護者の仕事が忙しい』って言ったら、な」
「……告白してくれた人に?」


「曙光の星に願いを寄せて」







    


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